2015.7.27
06:10【防衛最前線(38)】
観測ヘリOH1
密かに敵情を暴く“ニンジャ”の必殺技とは
最高速度は時速280kmを誇る(陸上自衛隊提供)
カワサキの“ニンジャ”といえばオートバイを連想する向きもあるが、自衛隊では川崎重工が中心となって開発した観測ヘリコプター「OH1」を指す。その愛称の通り、日本の領土に侵攻・上陸した敵を上空から偵察し、味方の地上攻撃部隊や戦闘ヘリコプター部隊に最新の情報を提供して戦術を支援することを任務とする。
陸上自衛隊の関係者は「OH1は作戦を実行する上での『目』や『耳』の役割を果たす。いくら敵より攻撃用の装備や数が勝っていても、正確な情報がなければ作戦の成功はおぼつかない」と指摘する。
ニンジャの鋭い「目」「耳」に当たるのが後部座席の後方上に搭載された「索敵サイト」だ。赤外線センサーや可視カラーTV、レーザー測距装置を一体化し、敵の地上部隊の状況を昼夜問わずに探知できる。
観測ヘリには、敵に気づかれないよう低空を高速で飛行する速力も求められる。OH1の巡航速度は時速240キロ、最高速度は時速280キロを誇る。多用途ヘリ「UH1J」の巡航速度時速216キロを大きく引き離す。
スピード以外の運動能力もニンジャの愛称に恥じない。機首を上に向けての垂直上昇や、80度での急降下や宙返り、後ろ向き宙返りなどのアクロバット飛行が可能で、緊急時にはいち早く退避できる。
敵情の観測時に重要となる空中静止(ホバリング)能力にも優れ、空中でパイロットが操縦桿から手を離していても自動でバランスを取っていられる敵から見つかりにくい工夫も施されている。操縦席は縦列のタンデム型にすることで、機体本体の幅はわずか1メートルに抑えてある。機体が小さい分、敵のレーダーや目視で発見されるリスクは低い。また、テールローターのブレード(羽)を不等間隔に配列することで、騒音を抑えることにも成功している。
観測ヘリは、万一、敵に気づかれて攻撃された場合でも、情報を味方に伝えるため、高い「生残性」が求められる。そのため座席は装甲化し、防弾ガラスを採用。ローターブレードにはグラスファイバー複合材を使用している。
OH1は陸自の観測ヘリ「OH6D」の後継機として、川崎重工業などが平成4年に開発に着手、8年8月に初飛行試験に成功した。量産型機の配備は11年度から始まっていた。
当初は約250機を生産する計画だったが、実際には34機で打ち止めとなった。先代のOH6の生産コストが1機あたり4億円以下だったのに対し、OH1は1機約20億円と偵察ヘリとしては高額だったことが障壁となった。ただ、その外観や機動性、希少性からミリタリーファンの間でもOH1の人気は高い。
今年2月、和歌山県白浜町沖約100メートルの海上にOH1が不時着する事故が発生した。乗組員は無事だったが、機体は水没。ネット上には「貴重な1機が…」と悔やむ声もあがった。
(政治部 石鍋圭)
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